その大学で日本学を学び、アンダーセン・コンサルティングやソロモン・ブラザーズに勤務し、ゴールドマン・サックスに移ってアナリストとして活動し、バブル崩壊後の日本にやってきたようです。
日本の銀行に眠る不良債権問題などを扱って(マネーゲームをしていたようですね)、ゴールドマン・サックスを退社し、日本で「茶道」などに打ち込んでいたとか。
彼の別荘の臨家が「小西美術工藝社」の社長の家だったことから、この会社に入社したようです。
小西美術工藝社とは、日本の国宝や重要文化財などを補修するという職人の会社で、技術はともかく経営が最悪だったと言います。
社員(おそらく社長も含めて)は職人ですから経営など判るわけもなく、その会社の経営に携わるようになり、2010年5月に会長就任します。
そして、日本の国宝や重要文化財に指定された建造物文化財の年間修復予算が80億円しかないことを伊本社海に訴えます。英国は予算を500億円出しているとして、あまりの日本政府の無関心ぶりを非難します。
さてその後ですが、アトキンス氏は建造物文化財などの保存が観光などの波及的経済効果の面で重要であり、日本の観光業界・行政が売り物にする「おもてなし」が外国人旅行者から見ると優先度が実は低いという分析結果を公表します。
その上で、自分の研究から「日本経済全体に関して、人口減少社会と少子高齢化社会における生産性向上の必要性」を主張し、中小企業を生産性低下の要因だと名指しています。しかも「中小企業が甘やかされているから、投資が起きない」などとも述べているそうです。
故に最低賃金の引き上げや中小企業統合の政策を提言しているようですが、この点が経済評論家の「三橋貴明氏」が反論するポイントとなったようです。
三橋氏は、「中小企業の生産性は、大企業の半分」と言う点と「中小企業は全体の約七割、3700万人の雇用をになっている」ことを正しいとして、日本の実質賃金低迷の主因の一つが「中小企業の生産性の低さ」であることを認めています。
しかし三橋氏は、アトキンソン氏が「総需要と供給能力」の関係について間違っていると指摘します。「中小企業が甘やかされているから、投資が起きない」という事は、「デフレギャップ」があるが故に生産性向上の投資が起きないということと背反すると言う訳です。
生産性とは、作った製品が売れて始めて向上するわけです。売れない商品はいくら生産の向上を図っても生産性は上がらないわけです。 当たり前ですね。
そして三橋氏は、「中小企業が生産性向上のための投資に踏み切れるだけの、安定的、継続的な需要の拡大がないこと」が、中小企業の生産性が向上しない原因であると看破します。
そしてその原因は、「安定的、継続的な需要拡大」を財政政策で推進しなければならない日本政府(財務省)が緊縮財政を継続していることに起因していると述べております。
つまりアトキンス氏は、「最低賃金引上げで、その賃金すら払えない中小企業は潰れろ!」と述べてにすぎないわけで、三橋氏は「政府による需要拡大を前提にした、最低賃金の引き上げ」を述べていると言う訳です。
三橋しの意見の方に賛同しますが、その点はアトキンス氏はどう考えているのでしょうか。中小企業の統合とはどのような統合を意図している言葉なのか、そこが良く判りませんね。
日本の国宝や重要文化財などを補修する職人さんは、一つの企業にまとめられるかも知れませんが、製造業の中小企業はそうはいかないのではないでしょうか。
日本は職人の国です。
重要文化財の多くは職人の手による構造物で、その補修も職人が現在も行っております。このような職人だけでなく、金属加工や構築物制作なども、弟子入りし先輩から様々な技巧を教わり育っていく職人が行うわけで、経営者になろうという職人はほとんどいないでしょう。
日本における中小企業は、このような職人の組織が無理やり企業化したものです。理由は「記帳の義務」を負わせる為だと思います。戦後のことです。税金を取りやすくするために・・・
こうして出来た日本の中小企業は、需要が喚起されて中堅企業となり、それでも大きくなった企業は上場して本物の株式会社になりました。
例えばホンダ創業者の本田宗一郎氏は、自分の作った車で世界のオートレースを制覇するために働いていました。ですからホンダ自動車という企業が大きくなることなど、どうでもよかったはずです。ですからアメリカ(トランプ的なアメリカ)などで人気があるのでしょう。
大きくなったのは株の配当が欲しい人たちの誘導があったからではないでしょうか。
戦後GHQによってなされた日本改造。財閥の解体と職人組織の有限・株式会社化。目的は政府と財閥の癒着を断ち切り、職人達にも記帳させて税金を取ること・・だったように思います。
そして武漢コロナの後は、生産性の低いとされる中小企業の淘汰と、株式配当が可能な中小企業再編のようです。少なくともデービッド・アトキンソン氏の思考はそのようですね。